おおっ!いた!イルカだ!船の上は色めきたった。
もう1隻、別のツアーの船が先にイルカを見つけていたようだった。
私もみんなの声につられて探すが、なかなか発見できない。ずいぶん探してようやく見つけることができた。少し潜って見えなくなったと思ったら、また上がってきてヒレが見える。思ったよりも速いスピードで泳いでいるようだ。
「はい居ましたーー用意してくださいねー」
「はい入ってくださいーどーぞー」 マイクから船長の声が流れる。
へ?
気がつくと辺りにいたみんなはいつの間にか素早く服を脱ぎ、3点セットをつけて水に入っていた。
早っ!!!!
ドルフィンスイムの心得、その第一は素早く!ということであった。
イルカはものすごく速いスピードで泳いでいる。
船は、イルカを脅かさないように、イルカの泳いでくる方向にそっと船尾を向ける。 イルカがいる方向を、船の進行方向を時計の12時として、スタッフや船長が「はい、今3時方向〜4時ーー5時ーー」と
指示をし、「ハイどうぞーー」との合図で、一斉にみんな船から飛び降りる。
最初のチャンスはぼーっとしているうちに逃してしまった。
あたふたと用意をし、最初は足が着かないから怖いし、と思ってライフジャケットもつけて入ったら、他の人が出す水泡しか見ないまま、イルカはどこかへ行ってしまったようだった。
こらあかんわ!と、船に上がるとすぐにライフジャケットを外す。
ここは小笠原、そして海の上。自然のイルカが相手なのだ。生半可な気持ちじゃイルカとは会えないんだ
そう思い、みんなに負けないくらい素早く用意をしなければと気合いを入れ、次のチャンスを待つことにした。
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画面真ん中より少し左にイルカの背びれ。見えます? |
少し泳ぐと、イルカは遠くへ行ってしまうので(人間の泳ぐスピードでは追いつかない)みんな一度船へと戻ってくる。
そしてまたイルカのいる方向へ船を動かし、また海へ入るのだ。
一度見て泳いだらそれで終わり!なのではなかった。何度もチャンスがあれば何度も海へ入るし、チャンスがなければ一日まったくイルカに会えない日だってあるのだ。
次のチャンスはすぐにやってきた。さっきのイルカの近くに船が移動する。 また、「はいどーぞーー」 の声とともに、今度はすぐに船尾から海へ飛び込む。
ブクブクブク・・・・と水の中の音。前にはフィンをつけた人の足が見える。
イルカはどこだ?あたりを見回す。そして前にいる人と同じ方向へと泳ぎ出す。 もう、ライフジャケットなんていらない。人間って浮くねんなぁ・・・って思う
。
あたりは全部青い世界。
そして、イルカはそこにいた。光る水の右手方向からこちらに近づいてきたかと思うと、目の前を通り過ぎ左手へと消えていった。
うゎぁぁーともぎゃぁぁーともつかない声が出る。口にシュノーケルを挟んでるから声にもならない音。
イルカだぁぁーーーーっっ イルカがいたーーーっ
自然に笑みがこぼれてくる。
イルカの声が聞こえる。キーーンともキューーーンとも聞こえる音。
たぶん時間はほんの一瞬。たった数秒の初遭遇だった。
あまりにすぐに会えすぎてあっけにとられたような、衝撃が強すぎて実感が伴わないようなそんな感じ。
興奮の面持ちで船に上がる。
「見た??」「見たぁーーーっ」
友人はまだイルカを見ることができていないようだった。以前ラフティングでおぼれかけてそれから水がちょっと怖くなっているとのことで、海に対して少し臆病になってるのかもしれない。
ツアーのベテランさんたちが親切に次はこういう風に入ったほうがいいとか、右側に行けとか、いろいろとアドバイスをしてくれていた。
最初に会ったイルカは、すぐに水中深くに潜ってどこかに行ってしまったようだった。 一頭だけだったし、そいつを目がけて2つの船から人間がわらわらと近づいていたから、ちょっとイルカもイヤになったのかもしれない。
ここにいるのは、水族館にいる飼い慣らされたイルカちゃんではないのだ。 彼らがその気にならなければ、一緒に遊んでなんてくれない。だいたい、一緒に遊んでくれるっていうこと自体が奇跡のような感じすらするけれど。
また、場所を変えてイルカを探すことになった。
ツアーはまだまだ続く。イルカって、ちゃんと会えるんだなぁとしみじみ思う。これからどんなことが起こるのか、ますます楽しみになってきたのであった。
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